金融引締めの震源地、米国市場をはるかに上回る下落率

東証マザーズ指数の下げが止まりません。21年2/16日につけた昨年来高値1320.73ポイントからの下落率は48%(22年2/22日時点)を超え、700ポイントを下回りました。高値をつけてから一年かけてじりじりと下げ続け、米国で金融引き締めへの懸念が高まった21年末から下げ足が加速しています。

私は、これまで「億トレーダー」と呼ばれる個人投資家を取材してきましたが、数千万円の含み益を失った人たちや、株式投資から「退場」する人も出始めるなど、大きな痛み抱えている投資家は少なくありません。勝ち組と言われた人たちにとっても難しい相場環境なのでしょう。

そもそも、今回の下落の背景は、急速に高まった米国の金融引締め懸念だとされています。もともと、金利が下落する局面では、バリュー株よりグロース株の方が優位になり、金利上昇局面ではその逆の動きになると言われてきました。実際、マザーズ指数は、日本銀行による異次元緩和を追い風に、2013年4月の585ポイントから、2018年1月の1355ポイントまで駆け上がってきました。

(SBI証券サイトより。22年2月22日)

もちろん、今年に入って、マザーズ市場と同様にグロース株が多く上場しているナスダック市場の株価も下落しています。しかし、主要株価指数であるナスダック総合指数は、市場最高値を付けた21年11/19日から16%程度下落したものの、マザーズ指数が昨年来高値をつけた21年2月16日の終値と比べると、まだプラス。金融引締めの震源地である米国のグロース株より、日本のグロース株のほうが大きく売られているのです。

コロナショック後、マザーズ指数は最速で上昇

ご存じの通り、東証マザーズ市場は、「新興企業向け」の株式市場です。

新興企業からすれば、東証一部や二部などと比べると上場基準は緩く、たとえ業績が赤字だったとしても上場できるため、さらなる成長の資金を調達する場として活用されてきました。

また、投資家にとっては、成長して何倍にも株価が跳ね上がる企業がある一方で、期待通りにならず株価が暴落する可能性もある「高リスク・高リターン」の市場です。世界的な流動性相場の中で、大きなリターンを狙った個人投資家のマネーのみならず、国内外の大口投資家の投資資金も流入。新型コロナウイルスの感染拡大を発端とした「コロナショック」後も、世界の中央銀行が緩和姿勢を強めたことで、マザーズ指数はナスダック総合指数の上昇を超えるハイスピードで急上昇したのです。

(SBI証券サイトより。22年2月22日)

そこに、今回の世界的な金融引締めの流れが起きました。米国の金融引締め観測に加えて、英国では他の先進国に先んじて政策金利の引き上げに踏み切り、欧州からもタカ派寄りの発言が目立つようになりました。また、高インフレに苦しむ新興国でも金利引き上げが相次いでいます。

その米国の金融引き締めを前に、投資家が5年間上昇し、コロナショックから最速で戻ってきたマザーズ銘柄に対して、本当にその「株価が妥当なのか」「割高すぎるのではないか」と疑問を持ち、いったんポジションを手仕舞ったとしても、それは不思議なことではありません。

また、人口が伸び続け、株価が長期的に上昇している米国のグロース株と、人口が減り高齢者の比率が高まっている日本のグロース株では、投資家からの期待感に差が出てしまうのは、当然なのかもしれません。

株価のトレンドを作る「海外投資家」の投資行動が鍵

(日本取引所発表の投資主体別売買動向のデータをもとに、著者作成)

このグラフは、昨年の秋以降の海外投資家と個人投資家の売買動向を示したものです。

海外投資家が高水準の買いを保っていた10月上旬、マザーズ指数は堅調に推移し、高値には程遠いものの、節目である1200ポイントに接近しました。ここまではまだ上値は重いものの、マザーズ全体の値動きは横ばいを続けていましたが、11月下旬、押し目買いを続けていた個人投資家とは反対に、海外投資家は徐々に売りを加速。冒頭にも書いた、下落率48%を超え、大きな節目も割り込んできたことで、コロナショック時の安値585ポイントを意識する水準まで下落してきました。

買っても買っても上がらない株価を前に個人投資家が売りだすと、海外投資家は買い戻す。個人投資家が再び買いに転じると、今度は売りをぶつける―――。これはあくまで私の憶測ですが、個人投資家と海外投資家の追いかけっこのような売買が、結果として株価を下落させ、売りが売りを招くといった状況になったひとつの要因なのではないかと思えます。

今回、マザーズ指数の下落が株式市場全体の下げを先行したように見えました。もし、マザーズ指数が他の株価指数の先行指標だとすれば、マザーズ指数の下げが止まった時が、全体相場にも安心感が広がりはじめる時なのではないでしょうか。

過去の金利上昇局面では、確かにバリュー株がグロース株より優位でしたが、その物色動向が切り替わるタイミングが必ずあります。相場の行方をけん引する「海外投資家」の売買動向から投資姿勢を知り、次のチャンスを待ちましょう。そして、投資したい企業をよく知るチャンスを得たと考えましょう。

グロース株は、トレンドが出始めるとその流れが長期間継続する特徴があります。そう、上がり始めれば上がり続け、下がりだすと下がり続けるという市場なのです。方向がしっかり変わったことを確認してから投資をはじめても遅すぎることはありません。焦りは禁物です。

この記事を書いた人

内田まさみ

1998年にラジオNIKKEIへ入社。『経済情報ネットワーク』、『東京株式実況中継』等の株式情報番組を担当し、その後はフリーに転身。現在はラジオNIKKEIや日経CNBCの番組パーソナリティを務めるほか、ライターとして複数のメディアに記事を執筆するなど、多方面で活躍中。2017年11月には、初の著書となる『FX億トレ! 7人の勝ち組トレーダーが考え方と手法を大公開』を刊行した。

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