年間約1000名を超える社長と会い続けている杉浦佳浩氏が、さまざまな経営者・起業家にインタビューする「代表世話人(だてにはげて)の企業発掘」。今回は、連続起業家の五味田 匡功さんに話を聞きました。

これは思いつかなかった!神社仏閣の御朱印状をNFTで販売するビジネスを仕掛ける

最近、NFT(非代替性トークン)を使った新しいビジネスが次々と発表されていますが、これは本当にユニークだと感心させられるビジネスが登場しました。神社仏閣の御朱印状をNFTで販売するサービスです。「デジタル御朱印・オンライン拝観」を仕掛ける連続起業家の五味田 匡功さんに話を聞きました。

五味田 匡功さんの紹介
2007年に会計事務所在籍中に社会保険労務士・中小企業診断士に同年度に合格。会計事務所内での社内ベンチャーとして社労士事務所を立ち上げ、その後独立。Wライセンスを活かし人事・労務設計と共に、ビジネスモデルの改善もサポートすることで関西でも有数の社労士事務所に成長させる。(株)船井総合研究所が主催する社労士事務所経営研究会では、2019年から3年連続最も支持された社労士に会員投票で選出され表彰される。2020年3月には自ら立ち上げた社労士事務所を事業承継し引退、同時に42年の歴史がある株式会社クリエイトマネジメント協会を承継する。承継を「する側」「される側」両者の経験を活かして、新しい承継モデル「ネクストプレナー」を立案し、日本最大の税理士事務所である辻・本郷税理士法人との共同事業として国、地方公共団体、金融機関と連携しながら普及に邁進している。近年は将来の市場成長を見据えNFT、メタバース関連の事業も手掛ける。著書に『急成長を実現する! 士業の営業戦略』(日本法令)、会社を買って、起業する。超低リスクで軌道に乗せる「個人M&A」入門(実業出版)がある。

なぜNFTに注目?

NFTはブロックチェーンを使うことで、本物の証明を極めて安価なコストで行うことが出来ます。特に今までコピーが横行してきた画像や音などの本物の証明に最適と言えます。2021年の取引額は前年の200倍以上に増加し、日本円で約2兆円となりました。約2兆円という取引金額は伝統的な美術品取引高の約4割に達していることになり、まさに驚異的な伸びです。

図表:NFT取引高

出所:Yearly NFT Market Report 2021

デジタルアートの世界を変えたNFT

デジタルアートはそのままだと幾らでも劣化なしにコピーが出来るため、アートそのものが高額で取引されることはありませんでした。ところが、NFTを使うことで本物の証明が可能となり、美術品としての価値が高まりました。例えば、2021年3月にはクリプトアーティストのBeepleが英国大手オークションハウスのクリスティーズにおいて約75億円で取引されました。ゴッホやピカソなどの絵画に匹敵する価格です。

また、デジタルアートはパーツの組合せで何万もの画像を作ることが出来、NFTではその画像をまとめて取引することが可能です。2021年5月にはLarva Labs が運営する1万体限定のNFTアートシリーズ「CryptoPunks」のうちの9体が18.5億円で落札され話題を呼びました。また、2022年4月には同じく1万体のNFTである「Moonbirds」が総額590億円という価格で完売するなど人気となっています。

優れた芸術性に加え、NFTという商品の将来性に対する期待がこうした高い評価につながっているのでしょう。

2次利用への課金が可能

NFTのもう一つの特徴は、流通過程を把握することが可能になり、2次利用においても作家に報酬を支払うことが出来るようになったことです。一般的に芸術家は作品を買い手に売却した際に受け取った代金だけが基本的に作品の対価でした。音楽や映画などは2次利用においても著作権料が支払われる仕組みが確立しており、芸術全体の評価向上につながっています。

一方、美術品は一発勝負なので買い手がどうしてもリスクを取りにくく、芸術家に支払われる代金は低く抑えられてきました。その後芸術家の評価が上がっても、所有者の含み益が増えるだけで芸術家に還元されることはなかったのです。

ところがNFTを使うことで、取引の都度、その一定部分を作成した芸術家に支払うことが出来ます。芸術家の評価の向上とともに芸術家にもたらされる2次利用手数料が増加し、芸術全体の評価向上に寄与することが期待されます。

何故御朱印?

御朱印は神社仏閣などで参拝した際に押してもらえるスタンプで、昨今はブームになっています。ところが、その神社仏閣に参拝しなければもらえません。御朱印を集めたいと思っても現地に行かなければならず、特に海外からの観光客や移動がおっくうな高齢者にとってはハードルの高いコンテンツとなります。また、昨今新型コロナウィルス感染拡大で移動が敬遠される中、参拝が前提となる御朱印の売上高は大きく落ち込んでいるのです。

出典:コロナ禍における神社実態調査の集計結果|埼玉県神社庁
http://www.saitama-jinjacho.or.jp/wp/wp-content/uploads/2020/07/jincho_233_ext_202007.pdf

これにNFTを活用しようというのがサービスを始めた理由です。日本には多くの優れた神社仏閣があり、海外観光客の関心も高いのですが、参拝が前提となっていることからその関心需要を満たしきれていません。そこで御朱印を販売し、併せてオンラインでの参拝を実現すれば神社仏閣としても認知度の向上、財政基盤の改善につながると考えたのです。また、オンライン参拝の後、実際に参拝につながる効果も期待できます。

御朱印や参拝は映像なので、そのままではコピーされてしまい神社仏閣の収入になりません。そこでNFTを使うことを考えたわけです。この仕組みを使うことで一つ一つの御朱印を区別することが出来、自分だけのものとして持つことが出来るわけです。

神社仏閣を守って社会課題の解決につなげたい

こうしたサービスは神社仏閣への関心を飛躍的に高めると思われます。まさに、外国人観光客の呼び込みの起爆剤を担う存在と言えるでしょう。神社仏閣の多くは承継者不足に悩み存亡の危機を迎えていますが、例えば地域三十三観音などのNFTシリーズを販売すれば地域全体の神社仏閣の収入増加につながり、神社仏閣における承継者不足という「社会課題」の解決という効果も期待できます

様々な社会課題が山積する中、日本においてはやはり神社仏閣が心の拠り所として大きな影響力を持っていると思います。社会全体の共栄を目指す東洋的宗教観の象徴である神社仏閣を守り反映させていくことの助けになれば幸いだと思っています。

このビジネスのために知財の権利化も準備しています。ただこれはこのビジネスを独占したいという意図からの準備ではありません。ライセンスを供与することを積極的に行っていきたいと考えており、またこの収益は社会に還元することを前提としています。

この記事を書いた人

杉浦佳浩

大阪府出身、1963年生まれ。新卒で三洋証券株式会社に入社し営業として活動。その後、キーエンスを経て、住友海上へ(現:三井住友海上)。20年間多岐にわたり同社にて活動する。2015年独立し、代表世話人株式会社を設立。現在数十社を超える会社において顧問として、世話人役を務める。紹介のみで、年間約1000名を超える社長と会い続けている。りそな銀行(りそなCollaborare)にて執筆中。