仕組み債販売について金融庁のモニタリング結果が発表され、日本経済新聞でも金融機関の対応などが取り上げられています。仕組み債やファンドなどはプライベートバンクで取り扱われることが多い商品ですが、プライベートバンクから見た、仕組み債やファンドについてBridge Rock Consultingのマネージング・ディレクター、岩田雄さんに聞いてきました。

仕組み債とファンド、両方ともプライベートバンクでは取り扱いが多い商品ですか?

手元にある欧州のプライベートバンクが毎週発行する投資アイディアを集めた資料があります。50ページ以上ある資料で、マクロ分析と投資アイディアが互い違いに出てくる資料です。毎週取り扱われる商品が変わりますが、仕組み債とファンドはいつも紹介されています。

仕組み債はどのような推奨を行っていますか?

足元で円安が進行していますが、そのことから円安によりメリットを受けられると思われる株式銘柄を資料は紹介しています。次に、その推奨銘柄と同業他社を組み合わせた仕組み債をいくつか紹介しています。共通しているのは仕組み債の投資期間が6ヶ月、円建てで10%の期待リターン。仕組み債を発行する投資銀行を含めてその他の条件はさまざまです。

ミソは、マクロ分析からある国/業種が有力であり、その次に推奨銘柄を株式として紹介します。ただ、株式のリスクは大きすぎると考える投資家のために仕組み債を複数用意して紹介します。投資家は、一つのマクロ分析を元に、自身のリスク許容度によってハイリスク・ハイリターンの株式投資を選択するか、ミドルリスク・ミドルリターンの仕組み債投資を選択することができます。

プライベートバンクとしては、マクロ分析に基づき、推奨する株式を選択すると共に、関連する仕組み債の組成の交渉を投資銀行と行って投資家に複数の選択肢を提供することが付加価値と言えます。

6ヶ月は短いと言えば短い期間ですね。

短いテーマで投資機会を狙いに行く投資家には適当な期間かもしれません。もう少し長い期間の投資機会を求める投資家にはファンド、あるいはマンデートと呼ばれる合同運用の一任投資という形もあります。

マンデートとファンドはどう違うのでしょうか?

マンデートは投資家自身の証券口座をプライベートバンクのプロの運用者に運用を任せることです。運用者は一つのモデルポートフォリオを用いて数多くの口座の運用をします。

ファンドは、投資家がファンドに投資し、その集まった資金が一つの口座に集中され、運用者が運用します。

マンデートの最低投資金額は運用スタイルによって100万米ドルから1000万米ドルまでさまざまです。投資家は、自身の口座で売買が行われるので、ファンドに比べると監査費用/法務費用など費用負担がなく、またマンデートを止めた時もそのタイミングで銘柄を保有したままにすることもできます。もちろん、最後に換金してもらうこともできます。ファンド投資は、基本的には現金で投資し、現金が戻ってきます。

株式のマンデートの最低投資金額は100万米ドル、債券は200万米ドル。この違いは売買の最低単位は株式が少なく、債券が多いところから出てきます。

マンデートのスタイルは株式高配当型、世界株式型、米国株式型、欧州株式型などがあり、債券ならば投資適格型、短期債券型などがあります。

プライベートバンクが扱うファンドに特徴はありますか?

債券型、株式型、テーマ型、バランス型、ヘッジファンド、プライベートエクイティファンドなどありとあらゆる種類のファンドを取り揃えていますが、共通して言えるのは、ピムコ、ブラックロック、シュローダーなど有名な運用会社のファンドが多く取り扱われています。

これらの運用会社が選ばれる理由としては運用会社の組織がしっかりしていること、運用会社の説明を投資家にする時間が省けること、プライベートバンカーへの商品説明サポートが期待できること、などがあります。以前、仕事の関係で複数のプライベートバンクの推奨ファンドリストを比べたことがありますが、記憶では6割以上重複していました。

6割は高くないですか?

アジアの富裕層は複数のプライベートバンクと付き合うことが多いので、重複が目につくかもしれません。欧州では複数のプライベートバンクと付き合うことは少ないと聞いていますのでファンドを選定するチームに違いを出すインセンティブがないのかもしれませんし、良いものは良い、という結果かもしれません。

以前、在籍していたスイスのプライベートバンクが日本株式のファンドを選定した際に日本の運用会社の商品も最終候補として残りましたが、結局はフランスの運用会社の商品が選ばれました。選定はスイスで行われたので、パフォーマンスだけでなく、欧州での運用会社の知名度やサポート体制の差も影響したかな、と感じました。

有名な運用会社の有名なファンドに偏るのが真の顧客ニーズを踏まえているかどうか、議論が分かれると思います。推奨リストは全てのバンカーが使い、あらゆる投資家向けなので、落語の「目黒のサンマ」ではありませんが、脂も骨も抜かれたファンド一覧になるのも仕方がないのかもしれません。

またプライベートバンクも推奨ファンド以外のファンドについて積極的に顧客に紹介しないようにしています。過去にバンカーが勧めたファンドがうまくいかず、責任問題になったのが背景にあるのかもしれません。ただ、お客様から「プライベートバンクの紹介するファンドは面白くない」という声もありました。重複が目についたのかもしれません。

投資家にとっての仕組み債投資の妙味は何でしょうか?

比較的短い投資テーマで投資ができる、という点ではないでしょうか。投資銀行も1000万米ドルほど集まれば新しい仕組み債を組成します。ファンドを組成するのに比べて初期コストが低く、投資期間も短く、債券を終わらせるコストが低いので機動性があり、プライベートバンクも債券を組成する投資銀行にもメリットがあります。

ある投資家がそのテーマで投資をするということは、他にも同じことを考える投資家がいるかもしれないので、投資銀行は別のプライベートバンクに売り込みに行きます。結果、また重複が起きます。

投資家にとってのマンデートの妙味は何でしょうか?

繰り返しになりますが、プロの運用者に自分の口座を運用してもらうことにつきます。投資金額が多ければ、テイラーメイドができます。例えば、世界株運用のマンデートを頼み、日本株はのぞいて欲しい、というようなアレンジができます。

また、他の投資家の動向を運用者が気にする必要がないので、細かな話ですが、運用における現金残高を低く抑えることができます。一般的なファンドですと解約を考慮して3−5%程度のキャッシュをいつも置いてあります。

投資家にとってのファンド投資の妙味は何でしょうか?

一番は投資効率が良い、という点ではないでしょうか。多くのファンドは投資家保護のために一定数以上の銘柄に投資することになっています。一度に20−30銘柄、S&P500のETFなら500銘柄に投資できるのは投資効率が良いと思います。

二つ目には運用会社の倒産リスクから隔離されている、という点です。仕組み債は、発行体が倒産すると、他の債券保有者と同じ扱いになります。ファンドは運用会社が倒産してもファンドの資金は分別管理されているので、投資家の資産は保全されます。

他に、実は三つほど大事な点があると先輩に教わりました。

一つ目はファンドでないと投資が難しい資産クラスへのアクセスができる。

二つ目は運用者の力量に任せられる。

三つ目は他の投資家と一緒に低流動性資産に投資することで、流動性が高まる。

アクティブ運用の良いファンドはこの三つのうち最低一つをクリアしています。

ファンドでないと投資が難しい資産クラスとしては、海外不動産やプライベートエクイティ、インフラ、デフォルトした債券、あらゆる種類のプライベートローンや証券化されたバンクローン、船舶の貨物コンテナや鉄道の貨車、などがあります。

二つ目の運用者の力量とはヘッジファンドやプライベートエクイティファンドなど運用者の運用力へのアクセスを得るためにファンド投資をするということです。

最後は、中小型株式や新興国債券など流動性が極めて低い銘柄への投資を個々に行うのではなく、ファンドを通じて他の投資家と行うことで流動性が高まるという点です。

例えば新興国のディストレスト債券に投資するヘッジファンドを例に取れば、その資産へのアクセスという意味で一つ目の点に合致し、その運用者の運用力があるとすれば二つ目の点に合致、そしてディストレスト債券は流動性が無いので他の投資家と一緒に投資するという意味で三つ目の点に合致します。

まとめますと、プライベートバンクに口座を開けると投資の選択肢が多い、ということでしょうか?

仕組み債、ファンドに限らず、為替のオプションを組み込んだ仕組み預金、個別銘柄の株/債券などいろいろな商品へのアクセスができるのがプライベートバンクの良さです。また、海外の富裕層が興味を持つ商品に時差なくアクセスができるのも魅力だと思います。日本の証券会社や銀行が扱うためには商品の組成/認可に時間がかかります。

プライベートバンク同士の競争が激しく、新しい付加価値の提供に切磋琢磨しています。また家族が海外に分散して住んでいる、など家庭の事情に合わせたソリューションも提供できるのは魅力だと思います。

(2022年7月27日投稿)

この記事を書いた人

岩田雄

サウスカロライナ大学国際MBA、ウィーン経済経営大学国際MBA、修了。国際基督教大学卒業。
MBA終了後、東京で外資系銀行、外資系資産運用会社に勤務後、ロンドンで日系資産運用会社の欧州子会社で法人営業を行う。欧州/中近東のソブリンウェルスファンド、銀行、年金、保険会社、王族ファミリーオフィスなどに営業を行う。その後、香港子会社設立のため香港に転勤後、シンガポールの子会社に赴任。三井住友銀行シンガポール支店、J. Safra Sarasin銀行を経て2020年に独立。シンガポールで欧米アジアのヘッジファンド、プライベートエクイティファンド、資産運用会社、弁護士事務所、ファミリーオフィスなどへのコンサルティング業務を行っている。