日本株は上値が重い相場が続いているなか、7月に入りボラティリティが上昇、今まで保っていた27000円台前半~3万円強の日経平均株価のBOXを下抜けしそうな雰囲気になっています。

米国株は7月半ばにも高値を更新する場面も見られましたが、日本株は今年の2月16日に高値を付けた後、上値を切り下げて推移しています。この背景は日銀のETF買い入れの額が著しく減少したこと、業績の先取りにより株価が上昇していたことがあげられます。

業績の先取りについては、5月半ばに今期予想が出そろいますが、投資家の期待を満たすことができなかったため、株価が低迷しているだと考えています。もし、今期業績予想が想定を上回るものであれば5月頭から半ばまでに日経平均は急上昇していたと思います。業績の変化に敏感な外国人投資家も投資家別売買動向を見る限り買い越し姿勢を強める兆候は見られませんでした。

下図は日経225採用銘柄の数年の業績と今期業績予想を集計したグラフです。業績予想を発表していない企業は一定のルールで処理しています。

(出所:各社会社予想等からこころトレード研究所作成)

これを見ると今期業績予想は最高益を計上した2018年3月期と比較すると約7%足りません。日経平均の動きを見る限り、今期最高益を超えると予想して買い進めていたと思っていますが大きな下落に至っていません。この理由は期末にかけてのある程度の上方修正を見込んでいるからでしょう。すでに前四半期から回復傾向が見えていた自動車、ハイテク、機械の一部などは今期業績が控えめだと考えています。いち早くコロナウイルスのワクチンを接種し、経済活動が回復している米国中心の景気回復、為替の円安がつづいていることにより期末にかけて更なる業績押し上げ効果が見られると思います。為替の円安での推移も日本企業の業績に追い風となります。2021年6月の日銀短観で全産業の想定為替レートはドル円で106.71円となっていることから早い企業は2Qから期末にかけて円安による業績の上方修正が行われる可能性が高いでしょう。

上記の理由から8月頭から本格化する1Q決算では日経平均のEPSを大幅に押し上げる上方修正は想定していません。そのためセクター全体の動向を把握し、個別銘柄の業績高進捗銘柄を探す戦略が有効でしょう。1Q業績の進捗率が良い銘柄は2Q、3Qと良い場合が多いこと、業績上方修正の可能性が高いこと、好業績を株価に織り込むため、株価上昇の要因となります。

銘柄のピックアップの方法は大きく2通りで「期初の業績が前期比で大幅増益になっているもの」、「1Q業績の進捗率が良いもの」をテーマとします。

「期初の業績が前期比で大幅増益になっているもの」は前期業績から今期大幅増益を予想している銘柄選択、「大幅増益を予想しているので1Qから業績がいいだろう」とヤマを張って決算前に先回りを行います。この手法を実践する際、前期業績が大きく落ち込んでいないかどうかのチェックが必要です。

前期はコロナウイルスの影響を受けて前々期と比較して大幅に落ち込んでいる銘柄が多く、投資家は前期からの回復は当然だと思っているので評価されません。前々期の利益を大きく上回るような業績を予想している銘柄を選ぶべきです。また、前3Q、4Qの業績もチェックしましょう。直近の四半期で業績の回復か見えており、かつ、今期業績が強気予想になっている銘柄は業績への期待が高いでしょう。

決算短信などの開示資料は1Qからの業績の積み上げを表記しているので3Q、4Qの業績を四半期ごとに分解して比較して下さい。計算が大変だと思う方はマネックス証券の銘柄スカウター等のツールを利用して下さい。四半期ごとの業績が5年分掲載されているので大変便利です。

「1Q業績の進捗率が良いもの」は決算前にヤマ張るのではなく、1Qの業績を見て今期会社予想と比較し、進捗率が良いものを選ぶ手法です。

決算で高進捗の業績を発表した銘柄は株価に業績を織り込む動きが顕著なため、翌日の寄付きで大幅に上昇することがほとんどです。

このため、新規に購入しようする投資家は大幅上昇している銘柄を買いに行くので天井で購入する恐怖から躊躇してしまう方もいると思います。しかし、決算発表を境に上昇を続け、決算発表日翌日が当面の安値となった銘柄も多数存在します。

決算書を読み解いて業界動向、増益の要因などを分析、好業績が続くかを判断し、「このくらいの上昇幅までであれば購入する」という目線を持ち購入を検討してください。

二つの手法の注意点をお話しすると「直近3か月で大幅上昇した銘柄」は避けて下さい。理由は業績進捗や今期の増益予想に着目して投資家がすでに仕込んでいることが多く、好業績の期待が先回りされて株価に載っている可能性が高いからです。

この手の銘柄は決算発表時に高い業績水準を想定した投資家から失望売りが出ることが多々あります。今後の業績を背景に上昇した銘柄には会社が発表した業績予想、四季報予想のさらに上の水準の業績を想定している投資家が見切り売りを出すのです。この反応が大きければ好業績にかかわらず株価は上がらないどころか大きく下落します。好業績にかかわらず、株価の下落を目の当たりにすることで会社予想並みの業績を想定していた投資家も「この決算は一過性ではないのか?」、「この銘柄を選択したのは間違っていたのではないのか?」などと不安になり狼狽します。下値でエントリーした投資家は足元の上昇で含み益になっているため、急速に減っていく含み益を目の当たりにすることで思考停止、狼狽売りを引き起こします。安い水準でエントリーした投資家はピークから減っているものの利益の獲得または軽微な損失でイグジットすることができます。

好業績にかかわらず株価が下落する現象は「出尽くし売り」という1ワードで済まされてしまうことが多いですが、業績に関しての出尽くしは上記の投資家の期待と株価への織り込みが起因していることが多いです。

決算発表前に「好業績だろう」と思って博打的な考えて買ってしまう方は業績への期待がどのくらい載っているのか、3か月かけて仕込んでいくなど傾向と対策を考えながら業績投資にトライして頂きたいと思います。

業績の把握やスクリーニングは前回のコラムでお話ししたマネックス証券の銘柄スカウターの10年スクリーニングなどで業績進捗のスクリーニングを行い、ピックアップして下さい。

執筆日2021年7月26日

この記事を書いた人

坂本 慎太郎(Bコミ)

2002年から証券会社のディーラーとして株式と先物の売買を経験。2008年から株式会社かんぽ生命保険に転じ、社債・地方債・財投機関債のファンド・マネージャーを経験した後、運用計画の策定・株式のストラテジスト、株式のファンド・マネージャーとして運用に携わる。
その後は個人投資家育成のため、こころトレード研究所を運営。ディーラーとして短期、機関投資家として中長期とあらゆる取引スパンを経験し、売買の裏側まで網羅していることが強み。