マイノリティはLGBTQだけではない

社会的マイノリティと言えば、LGBTQ(セクシュアルマイノリティ)の事を示すことが多いです。しかし、セクシュアルマイノリティだけでなく、社会的にマイノリティに属している人は他にも存在しています。代表的な層が「超富裕層」です。富裕層の人たちは「自分達がマイノリティであること」をあまり認識していない傾向がありますが、人口の割合的にも数が少ないのは事実です。金融資産保有額が1億円以上5億円未満の「富裕層」の世帯は124万世帯(人口の2.5%)、同5億円以上の「超富裕層」は8.7万世帯(人口の0.7%)です。数が少ないということは、「生きにくさ」を感じている人も多いはずです。世の中は「中間層」が生きやすい仕組み・税制になっており、富を持つ人間になればなるほど、実は生きづらい構造になっています。私自身は、富裕層が生きやすい制度や世の中になるべきだと考えています。そのためにも富裕層の方は、自分たちがマイノリティであることをまず認識し、自分たちの置かれている状況を一度俯瞰してみてください。富裕層の方にこそ必要なのが「真の意味での豊かさ」だと思います。本連載では超富裕層の方が知っておくべき「本質的なトレンド」や「豊かさ」を感じるためには何が必要かをお伝えします。第1回は俯瞰からスタートです。

なぜ年収3000万円は幸せが鈍化するのか

上場企業の経営者、事業を何社もバイアウトした経験のある人、エンジェル投資家など、金融資産で言えば人口の上位1%の方々にインタビューやお話を伺う事が多いですが、彼らは共通して「幸福度の鈍化」について話します。もともと、資産家の家に生まれた人は別として、自身で事業を成功させて登り詰めた人は、ほとんどの方が年収3000万円以上は幸せが鈍感すると話します。これは読者の富裕層の方々には思い当たるところがあるでしょう。

年収8000万円・金融資産10億円を超える人(40代・不動産)に「お金とストレス」についてお話を伺いました。1つ目のストレスは年収1000万円を超えたタイミングで訪れると言います。年収450万円の頃と比較すると、年収は倍以上にもなったにもかかわらず、税金により手取り額の比率は少なくなると感じる段階に入るようです。「年収1000万円までは、駆け上がっていく過程で、思い切り仕事をし、達成感・評価などの幸福度合いは鋭角的に高まったものの、1000万円を超え始めると、税金で取られる額が多いと感じ始め、幸せが鈍化するようになる」と述べます。年収5000万円・金融資産3億円を超える人(50代・金融)によれば、「年収1000万円までは一つひとつ山登りをしているようで楽しかったが、年収1000万円から3000万円にかけて、幸福度合いは徐々に“プラトー(一定)に達する”」といいます。

なぜか?消費を自由にできるようになり、目新しいものや刺激が少なくなる一方で、むしろ生活水準を下げられなくなっていきます。周りから見れば、成功を納め、自由に生きているかのように見える人たちも、「社会的な地位が高まったがゆえに、むしろ、制限が増え、負うものが大きくなり、不幸の中にいる」と口にする人が多い。取材を通して、人間とはなんと難しい生き物だと考えさせられます。

友達とは一体、何なのか

富を手にした人の多くは、一緒のレベルで遊べる友達が少なくなっていきます。これも読者の富裕層の方々には思い当たるところがあるでしょう。金融資産3000万円前後のプチ富裕層は比較的人口の割合が多いため、同じ所得水準の人たちと共にオープンな場で遊びや余興を楽しむ傾向がありますが、超富裕層になるとクローズドな場所で、家族のみでの遊びをする傾向があります。そして、中学・高校と学生時代を共にした友人は大切でありずっと“友達”ですが、何も気にせずに遊んでいた学生時代とは違い、年月とともに、出世のレベルや幸せな家庭、独立して成功して資産を手にするなどの「差」が開いていくのは事実です。

社会に出ることで、成功する人もいれば、芽が出ない人もいる。ただ、日本という社会の性質上、学生時代に時間を共にした友人に対しては、「人並みの人生を歩んでいる」ことや「人並みの成功」については話ができても、「成功しすぎる」と自分の話はできなくなる傾向があります。これは経験がある人も多いはずです。取材を通じて、世に成功者と言われている人は皆、「共に遊べる友達が少なくなっていく」と物悲しく話す。

富裕層は控えめに生きていかなければならないのか

幼い頃は、自分の心が赴くままに走りまわり「楽しい!」と感じ笑い転げていましたが、いつからか、ヒトの目を気にし、富を持っているがゆえに控えめに生きていかなければならない圧力を感じていることでしょう。富裕層の方が感じる「生きづらさ」についての苦悩を語る記事など、世の中にはほとんどありません。世論は中間層の味方であり、中間層の苦しみを訴えることがメインです。しかし、社会的マイノリティである超富裕層が「生きやすい」「幸せを感じる」ような社会は、経済的な側面からも必要です。東京が香港に代わる金融都市を目指していますが、日本が海外の富裕層からも魅力的に感じられる制度も整えていく事も国の国力にも繋がるでしょう。そういった意味でも皆様のような「超富裕層の声」にもフォースが当たるべく時代が来ると考えています。

この記事を書いた人

馬渕 磨理子

認定テクニカルアナリスト(CMTA®) 公共政策修士

京都大学公共政策大学院 修士過程を修了。法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで、上場企業の社長インタビュー、財務分析を行う。全国各地で登壇、プレジデント、週刊SPA!、Yahoo!ファイナンス、ダイヤモンドZAI、日経CNBCなど多数メディア掲載・出演の実績を持つ。現在は、ベンチャー企業で未上場マーケットのアナリスト・マーケティングを担当。大学時代は、国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞している。

【連載等】
マネックス証券での連載、Yahooファイナンスの記事掲載、ラジオ日経の出演経験などがあり、『PRESIDENT』『週刊SPA!』『日経CNBC』『ダイヤモンドZAi』『Yahoo!ファイナンス』『週刊女性』『テレビCMマネックス証券』など多数のメディア出演