◆22年のスタートは大荒れ

22年の株式市場は大荒れからスタートしました。足元の大幅な下落については3点ポイントがあります。

米国FRBの「利上げの前倒し」観測から値動きの激しい相場が続いています。それに加えて、1月26日公表のFOMCの声明の内容を「タカ派的」だと受け止められたことから、日経平均は1日で約1000円下げる展開となりました。

2つ目が、地政学リスク。地合いの良いタイミングではスルーされるような地政学リスクも、地合いが悪いタイミングでは敏感に反応します。今回は、ウクライナの地政学リスクも懸念材料として捉えられています。

3点目が業績です。アメリカでは決算発表が続いていますが、悪い決算ではありませんが、「マーケットが期待していたほどまでに好決算ではない」ことが挙げられます。例えば、ネットフリックスが決算後に1日で20%も株価が下落し「巣ごもり特需」の「はげ落ち感」も相場の雰囲気を重くしています。

■コロナで差が広がる「日米の家計格差」

米国の金融緩和は引き締めに舵を切り始め、厳しさを増す相場で超富裕層の方々はどのような投資戦略を組むべきでしょうか。

実は、大規模な金融緩和の恩恵を受けて、個人の純資産が1億ドル(約110億円)を超える「ウルトラ・ブラケット(ultra bracket)」が現在6万人も存在していることが分かっています。世界の家計資産と米国家計の膨張の数字をそれぞれみていきます。「グローバル・ウェルス・レポート2021」 によれば、世界の家計は2020年の1年間で28兆 7,000億ドル増加し、2020年末には、418兆3,000億ドルに拡大したと報告しています。地域別に見ると、北米12兆4,000億ドル、欧州9兆2,000億ドルの増加となり、この2つの地域が 2020年の富の増加の大部分を占めています。次に、中国が4兆2,000億ドル、アジア太平洋地域 (中国とインドを除く) が4兆7,000億ドルの増加です。米国だけに絞ってデータを確認すると、米連邦準備理事会(FRB)の発表では家計の金融資産は114兆ドル(約1京2000兆円)と2020年末より8.7%増え、過去最多を更新しています。

大規金融緩和により、個人資産が増加したことが確認できますが、日本国内で富の拡大を実感できている人は皆様のような一部の超富裕層だけでしょう。理由は明らかです。家計の金融資産構成の内訳を見ると戦慄が走ります。2021年8月20日に日本銀行調査統計局が発表した「資金循環の日米欧比較」 によれば、家計の金融資産構成の内訳は、日本は現金・預金(54.3%)、債務証券・投資信託・株式等(15.7%)、保険・年金等(27.4%)、一方、米国は現金・預金(13.3%)、債務証券・投資信託・株式等(55.2%)、保険・年金等(29%)です。米国の家計は「リスク資産の割合」が半数を越えている一方、日本の家計では半数が「現金・預金」で保有しています。日米における家計の金融資産のポートフォリオの違いは、リスク資産にレバレッジがかかり格差を生み出しています。持たざる者は「現状維持」ではなく、時代の流れに取り残されていく遺物と化す構造のなかで、私たちは生きていることを直視しなければならないでしょう。

米国の家計金融資産は株式などのリスク資産へ投資する傾向が高いため、結果的に個人投資家は大規模金融緩和による米国株高の恩恵を受けています。家計資産の急増は、個人消費を大きく促すことから、コロナ禍からの経済の立ち直りを支えることに繋がり、経済の底上げに繋がっています。

■知ったら終い、それまでボラティリティが高い相場継続

資産を持つ超富裕層は中央銀行の方向性に逆らわない点がポイントです。大規模な金融緩和の時代はリスク資産に資金を振り分けてきました。しかし、今年は米国が利上げに向かうわけですので「金融政策の方針が転換」します。境目に立っていることは認識しながらポジションを持つべきです。特に、相場はFRBの金融政策が「この先どうなるか分からない」状態を相場は嫌います。執筆時の1月28日時点では「3月の利上げは0.25%または0.5%からスタートなのか」「22年の利上げは何回なのか」「バランスシート縮小のスピードはどれくらいなのか」。この3点が分からない状態が続いています。相場用語に「知ったら終い(しまい)」という言葉があります。材料出尽くしという言葉を耳にされたことがあるでしょう。利上げが何回で、何%から始まるのか。これらが定まってくると相場は一時的に落ち着く可能性があると言うことです。実際、リーマンショック後の金融正常化の際では、利上げが決まった後にしばらく株価が上昇していた時期があります。FRBの方向性が決まった段階で相場が落ち着く可能性があります。超富裕層の皆様は、慌てることなく、冷静に、このあたりまで俯瞰して資産を守る手段を考えるべきでしょう。

この記事を書いた人

馬渕 磨理子

認定テクニカルアナリスト(CMTA®) 公共政策修士

京都大学公共政策大学院 修士過程を修了。法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで、上場企業の社長インタビュー、財務分析を行う。全国各地で登壇、プレジデント、週刊SPA!、Yahoo!ファイナンス、ダイヤモンドZAI、日経CNBCなど多数メディア掲載・出演の実績を持つ。現在は、ベンチャー企業で未上場マーケットのアナリスト・マーケティングを担当。大学時代は、国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞している。

【連載等】
マネックス証券での連載、Yahooファイナンスの記事掲載、ラジオ日経の出演経験などがあり、『PRESIDENT』『週刊SPA!』『日経CNBC』『ダイヤモンドZAi』『Yahoo!ファイナンス』『週刊女性』『テレビCMマネックス証券』など多数のメディア出演