◆株式市場における「ブラックスワン」が燻る 

ブラックスワン(Black Swan)とは、マーケットにおいて事前にほとんど予想できず、起きたときの衝撃が大きい事象のことです。 

8月のアフガニスタンの報道で、ブラックスワンの存在をあらためて意識した人が多いでしょう。従来、すべてのスワン(白鳥)は白色と信じられていましたが、黒いスワンが発見されたことで、鳥類学者の常識が大きく覆されました。これにちなんで、確率論や従来の知識や経験からは予測できない極端な事象が発生し、それが人々に多大な影響を与えることをブラックスワンと呼んでいます。具体例としては2008年のリーマンショック、最近では2016年6月の英国EU離脱、また2020年の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、究極のブラックスワンと言えるでしょう。起きてしまえば、金融市場に多大なる影響を与えてしまう。アフガニスタンの動向をめぐっては株式市場で日経平均株価は大幅続落し、8月16日は下げ幅を500円超まで広げました。売りが加速した背景には新型コロナウイルスの感染拡大がありますが、アフガニスタンから飛来した「ブラックスワン(黒い白鳥)」の存在も少なからず影響しています。超富裕層の方々は常に資産を守らなければならないため、このようなブラックスワンの存在は一般の人よりも敏感に考えなければならないでしょう。 

◆米軍のアフガニスタン撤退から何を考えるか 

米国はもはや『世界の警官』などやっていられないーー。これが米国の正直な意見でしょう。この米国の意思表明について、資産を守る立場の人間は真摯に受け止める必要があります。世界が混乱に満ちた時期に突入する可能性があるときに「どの地域に、どの金融商品に」自分の資産を分散させておくかは歴史的にも超富裕層が悩み続けてきた課題です。一族の富や組織の資本を置いておく究極の場所は、富を高めるものであると同時に、富を保つものでなければならない。財産を持っているひとは、「戦争、飢餓、疫病、そして死」この四騎士がいつ何時、野蛮な来訪者として突然やって来ることを身構えておく必要があります。富は、嫉妬深い人の心をかたくなにし、金持ちの心を無用にする(バートン・ビッグス『富・戦争・叡智』2010年)。アリストテレスは2300年前に「富は人を道化にする」とも言っています。米軍がアフガンから撤退することにより、タリバンが息を吹き返しました。「こんなに早く・・・政権を取るとは思わなかった」と関係者は口をそろえて話しますが、崩れ去ってしまったものは元には戻らない。20年近くにわたって巨額の費用を費やしながら、「世界の警察」の役割を担ってた米国には負荷が大きかったことを考えれば苦渋の決断なのでしょう。トランプ前政権時代には「我々の国民を帰国させるべきだ」と訴えており、2020年秋の大統領選でトランプ氏を破ったバイデン現大統領も、撤退路線を維持していました。この米国の決断を最も喜んでいるのが中国だとも言われています。 

◆アフガニスタンからの米軍撤収は習近平にとって千載一遇のチャンス 

中国問題グローバル研究所所長・筑波大学名誉教授・理学博士の遠藤誉氏によれば、中国が政権崩壊の後ろ盾になっているという思惑について言及しています。アフガニスタン情勢が米中対立の構造の中にあるとすれば、株式市場では米中関係の緊張を警戒した売りが株式市場に広がりやすいため気を張らなければなりません。中国は巨大経済圏構想「一帯一路」を掲げていますが、イランを始めとした中東諸国とのつながりにおいて、一か所だけ「抜けている地域」があります。それは、まさに今回、米軍が撤退した「アフガニスタン」です。遠藤氏によれば『ここは長きにわたって紛争が続いていたので、周辺国との交易などというゆとりはなかったのである。しかし、アフガニスタンが中国寄りのタリバンによって支配されれば、アフガニスタンは完全に中国に取り込まれて、「一帯一路」構想の中に入っていくことだろう』と述べています。実際に、7月28日にはタリバンが天津で王毅外相と会談に至っています。一帯一路構造の中で空白地帯であったアフガニスタンをタリバンが中国と結ばれることで、北京から西側は中国のものになりつつある。基軸通貨ドルに対抗する、「一帯一路」巨大経済圏構想は、ますます「巨大」になっていくばかりです。 

◆今後の株式市場の動き 

アフガニスタン全土制圧後、タリバンが初めて会見し、かつて抑圧した女性の権利を「イスラム法のもと尊重する」としていますが、実態がわからず不安が広がっています。タリバン支配下のアフガニスタンに米国の監視は届かなくなり、再びテロの温床となる懸念が強まっています。投資家は先行き不透明な状況に恐怖を感じるため、金融市場で事前に予測していなかったブラックスワン的なイベントが起こると、相場が大きく変動しやすくなります。また、資産を守るために、リスクを取らないリスクオフの状況に陥り、株式などのリスク資産は売られやすくなります。株式市場では今のところ、タリバンによる新政権樹立はある程度織り込んだようですが、この先、再度恐怖政治に陥らないか、国際テロ活動を行わないかを見定める状態がしばらく続きそうです。嫉妬深い「戦争、飢餓、疫病、そして死」――四騎士――に富を奪われないように、より慎重に地政学に目を凝らさなければならないと言えます。 

この記事を書いた人

馬渕 磨理子

認定テクニカルアナリスト(CMTA®) 公共政策修士

京都大学公共政策大学院 修士過程を修了。法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで、上場企業の社長インタビュー、財務分析を行う。全国各地で登壇、プレジデント、週刊SPA!、Yahoo!ファイナンス、ダイヤモンドZAI、日経CNBCなど多数メディア掲載・出演の実績を持つ。現在は、ベンチャー企業で未上場マーケットのアナリスト・マーケティングを担当。大学時代は、国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞している。

【連載等】
マネックス証券での連載、Yahooファイナンスの記事掲載、ラジオ日経の出演経験などがあり、『PRESIDENT』『週刊SPA!』『日経CNBC』『ダイヤモンドZAi』『Yahoo!ファイナンス』『週刊女性』『テレビCMマネックス証券』など多数のメディア出演